多田文明著『悪徳商法ハメさせ記』発売!

はじめに――勧誘の罠にかかって実態を暴いてみた
悪徳商法を行う業者は、ターゲットにした相手から多額の金をひっぱるために、まずどう料理するかを考える。ある意味、ターゲットは彼らの食材である。そこで業者が重要視するのは、相手が料理しやすい人間かどうかだ。つまり、これから行う騙しの手口に、ひっかかりやすい人間かどうかを見極めようとする。
以前に「ついていったらこうなった」(フジテレビ)の番組スタッフが、番組リサーチをするため、悪質路上キャッチに誘われようと歩いたものの、誰からも声をかけられなかった。なぜかというと、彼は180センチ以上の巨漢で、見た目にも怖い顔をしていたからである。そこで次に、ひょろひょろとした若い男性スタッフに変えて歩かせると、ものの数分で声をかけられ、勧誘場所に連れて行かれた。
このように、見た目にも自分の手に負えない相手と思えば、声すらかけない。また勧誘話をするうちに、契約までに一筋縄ではいきそうもないと思えば、さっと手を引くこともある。というのも、彼らはいつも時短を考えており、見込みのない客に時間をかけるよりは、効率よく騙せる相手と話した方が、金を簡単に稼げると思っているからだ。常に悪徳商法の業者らは、この客は騙せる見込みがあるのかないのか、あらゆる局面でチェックを入れてくる。それゆえ、私は相手の業者に対して、「悪徳」の確信が得られるまでに、できるだけ騙されやすい人を演じるようにしている。
悪徳業者にとっての騙されやすい人とは、まず自分たちの話の腰をおらずに素直に聞いているかである。そこで私は横柄な態度を取らず、従順な姿勢をとるように努める。私を狩ろうとする狼たちに対して、私自身をいかに従順な羊に見せるかにいつも腐心している。
私が受け身な姿勢で話を聞く理由にはもう一つある。それは、勧誘業者がすべて悪徳であるとは限らないことだ。私はできるだけ、相手が悪徳業者だと思い込んで対応しないように努めている。最初は、相手が良い業者だと本気で信じ切って話を聞く。終盤まで話を聞いて、相手が悪徳業者と判断すれば、反論する。しかしながら、時にあまりにも狡猾な手口を使うために、本気で騙されてしまうこともあり、潜入ルポには、こうした危険な側面がいつもつきまとっている。
私のような羊のような従順な態度に接しても、真摯な対応をする業者もいる。むろん、そういうところの内容は記事にはしない。しかしながら残念なことに、多くの業者が私をカモと見るや、ひどい騙しの言葉を並べて、一気に高額な商品サービスの契約をさせようとしてくる。
ここに載っている業者は、私を羊とみるや、一気に刃を向けてきたものたちの記録でもある。悪徳業者は私を罠にかけたつもりであろうが、勧誘実態を書かれることで、逆に私にハメられてしまったというわけである。とくと「悪徳商法ハメさせ記」をご堪能、頂ければと思う。

第1章 スケベ心につけこむ詐欺商法

1、エンゲージリング商法――もれなく美女がついてくる
私は不健康な夜更かし生活を改めようと、10時半にはテレビを消して床についた。もう少しで眠りに引きこまれそうになった時、けたたましく電話が鳴った。受話器を取ると、聞き覚えのない女性の声が耳元で響いた。

フミちゃん、って呼んでいい? 
「こんばんは!」
「は、はい……?」
私の眠りをさまさせようとする元気な声を出した。
「あれ~寝てました? 突然の電話でごめんなさい。私はR社の佐藤(仮名)です。簡単なアンケートをお願いします! ところで、招待券送ったけど届いていますか?」
「招待券?」
布団から出るのが面倒なので、私は探すふりだけをして答えた。
「え~、なくしちゃったの? だめじゃない! とっても大切なものだったのにい~」
「す、すみません」
彼女の勢いに押され、謝ってしまった。
「まあ、いいわ。許してあげる。それでは、アンケート行きますね! 今、独身ですか?」
「ええ」
アンケートに同意した覚えはないが、彼女は勝手に質問を始めた。
「恋人はいるんですか?」
「特にいないけど」
「ほんとにぃ~うふふっ!」
彼女は私に恋人がいないとわかると、「うふっ」「あはっ」と男心をくすぐるような甘ったるい声を出し始めた。恐らく、長いあいだ女性との触れ合いがない人はクラッときてしまうに違いない。事実、彼女が2年間いない私がそうだった。
「下の名前はなんていうの?」
「文明です」
「それじゃ、フミちゃんだね。そう呼んでいい?」
「ああ」
「ヤッター! フミちゃ~ん。うふっ!」
電話の向こうでひとりはしゃいでいる。寝込みを襲われた私は彼女のペースに巻き込まれた。
「フミちゃんは東京の人ですか?」
「いいえ、宮城の出身ですよ」
「うっそ~、私も大学がそこだったんですよ」
「大学はどこ?」
「S大です」
「あの体育大学ですか」
「知ってるんですか!」
ちょっとしたきっかけから話は盛り上がった。
「普段、お酒は何を飲むんですか?」
「ビールやワインを飲みますね」
「スッゴ~イ! ワインは白と赤どっちが好きですか?」
「黒かな」
「もう、やっだぁ~」
「嘘、白です」
彼女は私の心をつかもうとして、何を話しても驚いてくれる。それはわかっているのだが、話のウマが合うといつのまにか私も何やら楽しい気持ちになっていた。
「休みは何をしているんですか?」
「テニスかな」
「スッゴ~イ!」
サークルでコーチも時々しているというと、彼女の驚きはピークに達した。
「うわ~!」
失神してしまうのではないかと思うほどのリアクションである。
彼女は私のハートをつかんだと確信したのだろう。素に戻ってこう切り出した。
「ところで、もしフミちゃんが結婚するなら、ジミ婚とハデ婚どちらがいいですか?」
ここまで、正体を聞かずに話をしてしまったが、彼女は結婚相談所のセールスレディか何かだろうか? そこで、どんな仕事をしているかを聞いてみた。
「実は、私たちはエンゲージリングの新提案をしている会社なんです。それで、招待券送ったんですよ。私はテレマーケティングの者です」
宝石の提案をするテレマ……いまひとつよくわからない。しかし、彼女は私に質問をする暇を与えず言葉を続けた。
「今度、一緒に食事でもしましょうよ。それに、うちの宝石が置いてあるショールームにきてください。ねえ~」
正体不明のテレマ女ではあるが、ミステリアスな存在ほどかえって私に興味を抱かせた。もしかすると、かなりの美人かもしれないし? 宝石購入の話をされる危険性は充分に感じてはいたが、彼女と話をしてみたい気持ちには勝てなかった。
「いいよ」と私は返事をした。
待ち合わせの時間と場所を決めると、
「やったあ~! それじゃ、ちょっと待っててね」
彼女は電話を保留にもしないで、どこかへ行った。戻ってくるなり、彼女は言った。
「上司が話したいそうです。でも綺麗な人だから、口説いたりしちゃだめよ!」
落ち着いた感じの女性が出てきて、彼女と約束をした場所と時間を確認させられた。上司が出てきて、電話内容を再確認する。これは彼女がまだ入社したばかりであることを示していた。
再び彼女に変わった。
「まさか、口説かなかったでしょうね。2日後に会うまで、浮気しちゃだめですよ~」
なぜだかはわからないが、今日の1時間ほどの電話で、私は彼女の彼氏になってしまったようなのである。
「それじゃあ、こんなに夜も遅くなってしまったので明日の朝、モーニングコールしてあげますね」
彼女は朝6時に電話をかけることを約束して電話を切った。
翌朝5時半に私は起きて、2年ぶりにかかってくるかもしれないモーニングコールを布団の上で待っていた。しかし、7時になってもかかってこなかった。まったくの嘘つきな女である。私の心は少しずつさめてきた。

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